だれにするでもないはなし

みなさんこんばんは。

これはサークルクラッシュ同好会アドベントカレンダーの22日目の記事です。
遅刻者のいないサークラアドベントカレンダーはないとは言えど、投稿がおそくなってしまってすみません。

去年は恋愛に縁遠かったわたしですが、大学も2年目になりいよいよサークラ会員らしく恋愛の悩みが増えてきたなあといったところです。(検閲により中略 2020.04.03)そのことを書かないようにしようと思うと他のことがなにも書けなくて、こんなに遅くなってしまいました。


何を書いても全てがしっくりこないので、過去に書いたものを使うことにしました。以下の文章は、2019年サークルクラッシュ同好会会誌に投稿した「人を好きになるのがこわい話」の原案のようなものです。今回投稿するにあたりいろいろ手をいれましたが、どこかに齟齬があるかもしれないし今のわたしの気持ちとは少し異なる部分もありますが、読み物として読んでください。 


 これから書くことは、すべてが本当のことではないつもりです。だけれど、嘘をつくのは苦手なので、本当のことばかり書いてしまうかもしれません。でも、もしなにか思い当たる節があったとしても、ここに書かれていることが全て事実であると思わないでください。わたし自身と結びつけないでください。これは瓶詰の手紙と同じ、誰に宛てたものでもないのだから。


中学二年生のときから、高校を卒業するまで、わたしは多分、ある女の子のことが好きでした。

 

彼女が黒板に絵を描いていたのが、彼女の記憶のはじまりだ。四月、掃除が終わった後の教室で、サラサラと絵を描く彼女をみていたのを覚えている。
いつから彼女のことが好きになったのか明確には覚えていないけれど、それ以降に明確に彼女の瞬間を切り取った記憶がない、ような気がするので、もしかしたらその瞬間のひとめぼれ、だったのかもしれないし、もしかしたら最後まで好き、とは違ったのかもしれない。でもとりあえず、どこかのタイミングで好きになった、という前提で、話を続けよう。

好きすぎて話すだけでドキドキしてしまうということが世の中にはあるようだけれど、わたしは案外彼女と普通に話していたと思う。
出席番号が近かったから、掃除のあとや、定期考査期間の放課後に、近くの席の子達と集まって試験の出来やボカロのことを喋っていた。当時カゲプロが流行っていたものだから、じんさんの新曲の話とかしていたと思うんだけど、みんなが話しているのに相槌を打ちながら彼女は黒板にシンタローやエネちゃんの絵を描いていた。その写真がピンクのガラケーに残っている、から、そういうことがあったんだなあと覚えている。
だけれどそれ以上の距離感の詰め方がわからなかったから、普通のクラスメイトの関係のままで、中学二年生が終わった。そのあと彼女と同じクラスになることはなかった。

中学三年生のとき、放課後に集まってテスト勉強をしていたら、友人のうちの一人があるクラスメイトのことが好きだと打ち明けてきて、そこからみんなの好きな人の話になった。わたしは好きな人がいないと嘘をつくことはできないけれど、好きな人の名前は明かさないつもりだったのに、「**ちゃんでしょ?」と一発で当てられた。どうしてわかったのか、もう忘れてしまったけど、廊下ですれ違うときに私が彼女をいつも目で追っていたのに気づいたのかもしれない。
今思いかえすと中学生の頃の記憶は結構おぼろげになってきていて、ほんとうに彼女のことが好きだったのか確証がもてないけれど、この時名前を当てられて焦ったということはきっと好きだったんだろうなあと思う。

少し話がそれるけれど、私の通っていた女子校ではほとんど異性との交流はなくて、先輩と先生と同級生が主な恋愛対象だった。(留学に行った子を除けば、学年に一人男性と付き合っている子がいるぐらいだった。なぜか留学に行った子や帰国子女で編入してきた子は皆彼氏がいたようだった。中学1年生では先輩好きがほとんどで、だんだん学年が上がるにしたがって先生や同級生が好きな子が増えていった。高校2年や3年では、先生や同級生が好きだと公表している人はだいたい5人に3人ぐらいはいた印象である。)
先生とか同性とか、そういう社会的にあまりないパターンでの恋愛事情は複雑だから、みんな好きという感情の幅とあり方の多様さを理解していた。好きだけど付き合いたくないとか、相手に好きなことを知られたくないとか、遠くから見ていられればそれでいいとか、逆に恋愛が無理なら友達として最大限仲良くなりたいとか、いろいろ。そういうことをちゃんと聞いてくれて認めてくれる友人と中高生を過ごせたことはとてもありがたかったと思う。

その後も、文化祭の時に彼女の発表を見に行ったぐらいで、特になにもないまま高校三年間が過ぎていった。
文化祭の発表で彼女はギターを弾きながら当時のヒットソングを歌っていて、わたしは知らない曲だったから曲名もわからないけれど、舞台に立っている彼女を見つめながら、ただ彼女が高校生になるまで過ごしてきた時間に思いを馳せたりしていた。

卒業式の前日、好きな子に最後に想いを伝えるかどうか悩んでいる子たちが教室の隅に集まって話をしていた。
明日までに手紙を書いてくる、と言って
私は心の中で、成人式まで待とう、と思った。学校が離れて、廊下ですれ違うこともなくなって、それでも好きだったら、わたしの気持ちを伝えてもいいことにしよう、と。

それから2年ぐらいが経って、わたしは19歳になっていた。
大学に好きかもしれない人がいて、でも好きなのか好きじゃないのかよくわからないうちに全てわからなくなってしまった。
あの頃卒業式に好きな子に手紙を渡していた子には大学で素敵な彼氏ができていた。

もうすぐ成人式だけど、わたしは彼女になにも言わないと思う。
ただ遠くから、彼女のことを眺めて、ああきれいだなあと思うだけだと思う。

それでいいの。今でも好きでなくてよかった。

 だけど彼女のことがだれにも知られないのはすこしだけ、残念な気がして
わたしは一人で完結させた一つの思い出の宝石を、海に投げることにしたのです。
瓶詰の手紙。